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土木工事の夏季休工が現実になる?国交省がすすめる猛暑対策のメリットとデメリット(後編)

2回シリーズでお届けしている土木工事の夏季休工シリーズ。前編では夏季休工の概要や導入の必要性、期待されるメリットと懸念点、具体的な実現方法を紹介しました。

後編では、国土交通省宇都宮国道事務所で試行されたモデル工事の具体的な運用策に焦点を当てます。現場の事業者や作業者の生の声から浮き彫りになった夏季休工のメリットと今後の課題や改善要望、今後の展望を紹介します。

夏季休工の導入事例に見る具体的な猛暑対策

国土交通省の宇都宮国道事務所では2023、2024年に舗装工事で夏季休工を試験的に導入しました。実際に施工や調査設計に当たった担当者の声をもとに、現場で取り入れられた具体的な猛暑対策の一例を紹介します。

  • 夜間や早朝の勤務(5:00〜14:00など)で稼働効率アップを図った。
  • 休憩時間の上限を撤廃し、休憩を自由に取れるようにした。
  • 冷却ベストや空調ベスト、スポーツドリンクや氷を提供している。
  • 猛暑時は単独での作業を禁止し、互いの状況確認を徹底している。
  • クーラー付きの小型休憩ボックスを現場に設置した。
  • ICT施工(3D測量、半自動切削など)で準備期間の生産性向上を図っている。
  • 繁忙期(1~3月)と夏のお盆時期の休みを入れ替えるなど、工期全体で休みを調整している。

現場の声からは、施工時期だけでなく時間帯の調整や物理的な対策も柔軟に組み合わせ、作業員の安全と休養を確保していることが伝わってきます。

現場・事業者の声──メリットと今後の課題

夏季休工を試験的に導入した施工会社や設計コンサルタント、現場の作業員からは、メリットや課題、改善要望など多岐にわたる意見が寄せられました。ここではその一部を紹介します。

メリット

工事の関係者から挙げられた夏季休工のメリットは以下の通りです。

  • 熱中症や夏バテの予防につながり、体力的・精神的な余裕ができた。
  • 休工期間が夏休みやお盆期間と重なり、家族との団らんが増えた。
  • 舗装工事では、猛暑を避けることで舗装の品質管理が容易になった。
  • 猛暑時の過酷な作業が原因で若手の現場離れが進んでいたが、夏季休工によって建設業界のイメージが向上し、若手人材の確保と定着につながることが期待できる。

夏季休工の導入にはさまざまなハードルがあるものの、「まずやってみてから課題を挙げ、改善を図ることが先決」との前向きな意見が多く寄せられました。

今後の課題

一方で、全面的な夏季休工の導入に向けて以下のような課題も指摘されています。

  • 収入減少の懸念
  • 工期・人員の再配分の難しさ
  • 現場維持管理費負担の増加

まず、日給制や月給制の労働者、協力会社の休工期間中の収入が減少する点が最大の課題です。また、休工期間後に業務が集中すれば、人員の確保と再配分が困難になるとの声も挙がっています。休工期間中にかかる現場の維持管理費についても、負担が重くならない工夫が必要でしょう。

また、長期の休工が工種によって困難になる点も指摘されています。

  • 維持工事:年間を通して作業が必要。
  • 緑地管理:草木の伐採が必要な時期と猛暑期が重なる。
  • 橋梁点検:現場調査を6~8月に行わないと3月の工期末に間に合わない。夜間しか点検できない橋梁があるなど工期設定上の制約が多い。
  • その他・舗装、区画線工事:材料が高温のため、季節を問わず猛暑時と同様の配慮が必要。

上記の工種では夏季休工にとらわれない柔軟な対策が求められます。一部ではデータの3D化と工程のICT化により、猛暑下の作業を回避する試みも進んでいるようです。

改善要望

今回、夏季休工を実施した工事の現場からは、国や発注側に対し以下のような要望が出されています。

  • 施工量や工期設定を発注段階で考慮してほしい。発注時期も早めてもらえるとありがたい。
  • 夏季休工と週休2日制を代替可能にしてほしい。
  • 現場管理費などの経費補填や労務費の補正など、経済的な支援が必要。
  • 熱中症対策経費が(後付けでなく)事前支給される仕組みがほしい。

特に発注段階での工期・施工量の設計、費用補填や労務費補正に関する要望が多く挙がっていました。国と県、市が足並みをそろえて上記を改善することで、地方の中小業者でも資金繰りに悩まされず夏季休工に踏みきれるようになるでしょう。

土木工事における夏季休工の今後の展望

宇都宮国道事務所では、夏季休工の取り組みを「建設業界や社会構造自体を変革させるモデルケース」と捉え、幅広い工種や工事に横展開する方針です。

2025年7月に公表された改訂版「公共建築工事における工期設定の基本的考え方」に猛暑への考慮が盛り込まれていることからも、今後、夏季休工が来夏以降から順次適用され、より多くの地域と工種で柔軟に運用されることが予想されます。2025年6月に「労働安全衛生規則」が改正され、現場の熱中症対策が義務化されたことも改革を後押しするでしょう。

土木工事の夏季休工の画期的な取り組みは、建設業界の長期的な魅力を高め、若手人材の入職のきっかけとなりそうです。官民が共同して足並みを揃え、すべての工事に夏季休工が波及していく日も遠くないはずです。

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