3回シリーズでICT施工の導入特集をお届けしています。前回は、ICT施工の概要と目的、導入における課題を紹介しました。今回は国によるICT施工の導入施策と、事業者向けの具体的な導入支援について解説します。
国が進めるICT施工の導入施策
国土交通省は、2016年度から建設現場の生産性を高める「I-Construction」を推進しており、ICT土工を始めとするICT技術の全面的活用、規格標準化などの全体最適の導入、施工時期の平準化の3つを柱に、さまざまな施策を展開してきました。
I-Constructionの柱の一つとして、国はICT施工の導入を円滑にするためにガイドラインとマニュアルを整備したうえで、以下の導入施策に取り組んでいます。
- ICT活用工事の積算基準の整備・改定
- BIM/CIMの原則適用
- 技術基準の見直し・要領のスリム化
事業者がICT建機や3次元測量などの導入経費を計上しやすいよう、国は積算基準を整備・改定し、2023年度版の公共工事積算基準に反映しました。
さらに2023年度からは、小規模を除くすべての公共工事でBIM/CIMの活用が原則化されています。BIM/CIM(Building/Construction Information Modeling, Management)とは、調査・設計から施工、維持管理にいたるまで、3次元モデルで情報を一元管理する取り組みのことです。設計図書の3次元データ化により、発注者と受注者、関係者間の情報の受け渡しを効率化する狙いがあります。
また、BIM/CIMやAR技術によって現場の計測やデータの共有が容易になったことから、国は出来形管理などの事務手続きを簡略化し、現場の工数削減を図っています。国は技術基準についても柔軟に見直し、工程の削減につながる改定を実施する方針です。
国土交通省「今後の取組方針について」「ICT施工の技術基準類拡大に関する報告」
建設事業者に向けたICT施工導入支援
次に、国が建設事業者に向け実施しているICT施工の導入支援を紹介します。
補助金・助成金および税制優遇措置
国は高額なICT機器やソフトウェアを導入する事業者に対し、「ものづくり補助金」や「IT導入補助金」の申請を勧めています。また、中小企業がICT関連に設備投資する際に、一定の要件を満たせば以下の税制優遇措置の適用を受けられることも周知しています。
- 固定資産税の特例:最長5年間、最大4分の1に軽減(雇用者の給与支給額増額の場合)
- 中小企業経営強化税制:中小企業が事業成長のために新システムや機材を導入する際に受けられる税制優遇
- 中小企業投資促進税制:特別償却30%または取得価格の7%税額控除
国土交通省「i-Constructionの導入に関する 補助金・税制・融資制度」
ICT研修・セミナーの開催(ICT人材育成)
国は自治体や関連団体と連携し、ICT施工に関する研修会やセミナーを開催しています。
デジタルデータの取り扱いなどの体系的な専門知識や技術について、小規模事業者が従業員に教育することは困難です。また、実際の現場では、ICT施工の導入によって、従来の業務フローが大幅に変更されることに不安を抱く事業者や技術者も少なくありません。
そのため、国は講習会や体験会、無料のICT施工eラーニングなどを通じて、ICT技術や知識の習得を継続的に支援しています。
参照:国土交通省「今後の取組方針について」
相談窓口やICTアドバイザーの設置
国はICT施工に関する疑問や課題を抱える企業に対し、専門家が助言を行う「ICTアドバイザー制度」も設けています。
ICTアドバイザーとは、ICT施工に関する疑問や課題を抱える企業に、具体的な技術指導やノウハウ提供をする専門家(ICT施工の専門知識と実績を持つ技術者や企業・団体)のことです。
また、2020年にはICT施工を各現場で指導・助言する人材を育成する目的でICT相談窓口が設立されています。さらに、2023年には各地方整備局でも独自のアドバイザー制度が創設されました。前の研修やセミナーと併せて、国はICT施工のスムーズな導入を後押ししています。
参照:国土交通省「今後の取組方針について」
ICT施工シリーズ2回目は、国の導入施策と事業者向けの支援策を紹介しました。最終回の次回は、ICT施工がもたらす事業者や働く人にとってのメリットを解説します。