日本建設業連合会(日建連)は2025年7月、建設業の長期的見通しとあるべき姿を描く「建設業の長期ビジョン2.0」を発表しました。このビジョンには、業界が直面する課題と乗り越えるための具体的な施策、建設業の使命が示されています。
そこで今回から2回シリーズで、建設業の長期ビジョン2.0から読み解く建設業の10年後の姿を紹介します。シリーズ1回目は建設業長期ビジョンの概要と現状の課題、今後10年間の建設市場と担い手の見通し、生産性向上と社会課題解決の取り組みを紹介します。
建設業の未来を描く「建設業の長期ビジョン2.0」とは?
長期ビジョン2.0では「スマートなけんせつのチカラで未来を切り拓く」をテーマに、建設業の使命を再定義し、新たな担い手確保とスマート施工の推進を打ち出しています。
日本建設業連合会(以後、日建連)は2015年に第1回長期ビジョンを発表し、業界改革を推進してきました。しかし10年間で建設業を取り巻く環境や課題が変化したため、新たな指針が必要となったのです。
【未解決の課題】
- 技能労働者のいっそうの減少
- さらなる処遇改善の必要性
- 不十分な価格転嫁
【新たな課題】
- デジタル・AI技術の本格的な活用
- SDGs/カーボンニュートラルへの対応
- 女性、外国人労働者、高齢者など多様な人材の確保
今後建設業界が複雑化した課題にどのように取り組むのか、2035年・2050年における業界のあるべき姿と使命、それを実現するための指針を示したものが今回の長期ビジョン2.0です。
ビジョンでは2050年の建設業の姿を、最先端技術で建設フローを最適化し、高度な技術と技能を持つプロフェッショナルとして社会の安全・安心を守るとともに、国内外の多様な課題の解決に貢献する存在として描いています。
日本建設業連合会「スマートなけんせつのチカラで未来を切り拓く-建設業の長期ビジョン2.0」
10年後(2035年)の建設市場と担い手の見通し
日建連の試算によれば、2025年度から2035年度の10年間で建設投資額は68.5兆円から84.3兆円(いずれも名目値)に拡大すると想定されています。一方、建設業の担い手は2035年までに約35万人減少し、必要な技能労働者数393万人より129万人不足する見込みです。
仮にi-Construction2.0(2040年度までに現場の生産性を1.5倍向上)が実現した場合、想定不足人数は約61万人まで、新規入職者が増加すれば約31万人まで抑えられる可能性があります。日建連では生産性向上+入職者増加の両輪で、労働力不足の解消に取り組む指針を掲げています。
長期ビジョン2.0「けんせつのチカラの強化」の具体的施策
日建連は長期ビジョン2.0第2部第2章「けんせつのチカラの強化」において、2035年までの建設業の指針と具体的な施策を示しています。
ここでは、未来の建設業のあるべき姿を実現するために、2035年までの10年間に取り組む具体的な施策を紹介します。
「けんせつのチカラの強化」の施策①生産性の向上
日建連では技術革新を通じて以下の建設プロセススマート化を進め、2035年までに建設業の生産性を2025年度比で25%向上させる方針です。
- スマートな生産体制とオートメーション化
- デジタル化による建設プロセス全体の効率化
例えば、生産された部材を現場で組み立てるプレキャスト化や3Dプリンター建築などの技術をAIやロボットと組み合わせれば、工期短縮と施工品質の安定、ひいては省人化につながります。現場がスマート化されれば、働く人は上流のポジションへと移行する可能性が高まります。
さらに、3Dデジタルモデル(BIM/CIM)を建設の全プロセスで活用する取り組みも進行中です。10年後には、発注者と設計者、施工・協力業者などの関係者すべてが、同一のプラットフォーム上で業務が可能になるでしょう。
「けんせつのチカラの強化」の施策②新たな社会課題への対応
建設業が10年後の未来に向けて担う主要な役割の一つとして、現代社会が抱える以下の課題を解決し、持続可能な未来につなげることが示されています。
- インフラ長寿命化とエリアマネジメント
- カーボンニュートラル・循環型経済への貢献
- 海外インフラ需要への技術提供
インフラの老朽化が進む現在、建設業は道路や橋などの社会基盤を、最新の技術でより長く、安全に使える形に再生する使命を担います。併せて、都市のデータを一元管理する「データプラットフォーマー」となり、産業の枠を超えたサービスを創出することも、建設業の新たなミッションです。
また、日建連は施工段階のCO₂排出量を2013年度比で60%削減する方針を掲げ、以下の方針を打ち出しています。
- 省エネ建材や再生可能エネルギーの活用
- 廃棄物の削減とリサイクル(サーキュラーエコノミー)
- 生物多様性の保全に配慮したインフラ整備
都市全体のエネルギー効率を高める「都市のエコシステム化」の推進などがその一例です。
さらに、長年培ってきた高い技術力でアジアやアフリカ地域の発展に貢献することも、日本の建設業に課せられた重要な使命です。10年後の建設業には、課題解決の先進国・日本の代表として環境やエネルギー、防災などのノウハウを提供し、世界の持続可能な発展に貢献する未来が予想されます。
今回は、日建連が発表した「建設業の長期ビジョン2.0」から見た建設業の課題と生産性向上、社会課題への対応姿勢を解説しました。シリーズ2回目は、選ばれる産業への変革やサプライチェーンにおける新たな関係性の構築について解説します。