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土木工事の夏季休工が現実になる?国交省がすすめる猛暑対策のメリットとデメリット(前編)

年々深刻化する夏の猛暑を受け、国土交通省は地方整備局発注の土木工事を対象に、猛暑期間の現場作業を休止する「夏季休工」の方針を打ち出しました。現場の労働環境改善と担い手確保につなげる狙いです。

今回から2回に分けて、先行して夏季休工を導入した土木工事のモデル工事における取り組みと、そこから明らかになったメリットと課題、改善点を紹介します。前編では、夏季休工の概要や導入の必要性、期待される効果と懸念点、猛暑対策の手法を紹介します。

土木工事の猛暑対策「夏季休工」とは?

土木工事の夏季休工とは、夏の酷暑による熱中症のリスクを低減し労働環境を改善するため、真夏の特定の期間に土木工事の現場作業を休止する取り組みのことです。主に7月から8月にかけての1〜2カ月間が想定され、休工期間は作業員の休養や内業、準備作業などに充てられます。

国土交通省関東地方整備局の宇都宮国道事務所では、働き方改革と熱中症予防を目的に、先行してモデル工事を実施しました。該当の工事では、特記仕様書に「猛暑期間(7〜8月)の現場施工回避については発注者と受注者が協議の上決定できる」と明記し、さまざまな手法を用いて猛暑下の現場施工を回避しています。

同事務所では受注者と協議の上、2023・2024年度に補正予算で発注した舗装工事2件の夏季休工を実施し、2025年度には6件の夏季休工を実施する予定です(2025年6月時点)。

土木工事における猛暑対策と夏季休工の必要性

夏季の猛暑が建設現場にもたらす主な弊害は以下の2つです。

  • 深刻化する熱中症リスクと生産性低下
  • 若手リクルートの大きな障壁

熱中症や夏バテといった作業員の安全衛生が最大の課題です。高温環境での作業は体調不良や生産性低下の原因となり、熱中症は最悪の場合生命の危機にも直結します。実際、2024年度の建設業における熱中症死傷者数は228件が報告されており、予断を許さない状況です。

また、若手のリクルートを阻む大きな要因に厳しい労働環境があるといわれています。もともと若手層の人材が減少傾向にある中、猛暑下の過酷な作業のイメージが定着すれば、建設業離れに拍車がかかってしまうでしょう。猛暑対策を初めとする働き方の抜本的な見直しは、若者が魅力的に感じる業界へと変革するために不可欠といえます。

(参照:厚生労働省「別添1  2024 年(令和6年) 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」)

夏季休工で期待される効果と懸念点

ここで、夏季休工で期待されるメリットと、想定されるデメリットや懸念点について解説します。

期待される効果とメリット

夏季休工の導入により以下の効果が期待されています。

  • 作業員の健康管理とワークライフバランスの向上
  • 品質管理の安定化
  • 担い手確保の後押し

猛暑下の作業を回避すれば熱中症や夏バテを予防でき、作業従事者の健康管理・体調管理がしやすくなります。休工期間がお盆や子どもの夏休みと重なれば、家族との時間も過ごせてワークライフバランスも改善するでしょう。結果として、作業従事者が長く安心して働けるようになり、新しい担い手確保にもつながります。

また、舗装工事のように施工のコンディションが外気温に影響されやすい工種については、猛暑時期を避けた施工で一定の品質を保ちやすくなり、工程も安定することが見込まれます。

想定されるデメリットと懸念点

一方で、夏季休工にはいくつかの課題もあります。夏季休工を導入する上で懸念されるポイントは以下の3つです。

  • 日給・月給労働者の収入減少
  • 現場管理費などの負担増加
  • 工種による実施の難易度

日給や月給で働く作業員にとっては、収入が一時的に途絶えるおそれがあります。施工業者にとっては売り上げが減少することに加え、休工期間中の資材保管や設備の維持管理コストが膨らむことも大きな課題です。

また、維持工事や緑地管理、橋梁点検といった年間を通じて作業が必要な工種においては、特定期間の休工自体が難しいため、休工以外の猛暑対策も柔軟に取り入れる必要があるでしょう。

夏季休工と具体的な猛暑対策

工事現場の猛暑対策には大きく分けて以下の3種類があります。

  • 夏季の休工期間を内業や準備作業に充てる
  • 作業時間を夜間や早朝に変更する
  • データを3D化しICT施工を導入する

例えば、用地確保や設計を前倒ししたり準備工を早期に進めたりすることで、夏季の休工期間を確保する方法があります。また、日中の猛暑を避け、夜間や早朝に作業時間を変更し変則勤務化することも一つの手です。さらにICT施工を導入すれば、暑い時間帯に現場作業員が屋外で働く時間を短縮できるでしょう。

いずれの方法を取る場合でも、発注段階での施工量や工期設定の考慮が不可欠です。国は各施工業者が適切な猛暑対策を実施できるよう、全国の発注者に協力を呼びかける方針です。

第2回の後編では、公共工事で猛暑期の作業を削減する具体的な取り組みを紹介します。また、宇都宮国道のモデル工事で実施された具体的な運用策や、現場・事業者から寄せられた詳細な声を紹介し、今後の夏季休工の導入見通しにも触れます。

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