建設業界では働き方改革が浸透しつつあり、監理技術者の仕事も例外ではありません。2024年4月1日からは国土交通省の新しい「監理技術者運用マニュアル」が適用されたことで、監理技術者の柔軟な働き方の実現が期待されています。
今回は監理技術者運用マニュアルにおける改正点と、新マニュアルで監理技術者の働き方がどのように変わるのか、わかりやすく解説します。
監理技術者の専任義務とは
監理技術者とは、建設現場で施工の技術的な管理や監督を行う責任者のことです。
公共・民間工事を問わず、個人住宅を除くほとんどの工事が配置の対象となり、一件の請負金額が4,000万円(建築一式工事は8,000万円)以上の工事(2024年時点)については、監理技術者を「専任」で配置しなければならないとされています。
なお「専任」の意味について、国は「他の工事現場に係る職務を兼務せず、常時継続的に当該工事現場に係る職務にのみ従事することを意味するものであり、必ずしも当該工事現場への常駐を必要とするものではない」と示しています。しかし実際の現場では「常駐」が求められ、監理技術者の働き方改革を進める足かせとなっているのが実情です。
参照:国土交通省「技術者の専任要件の緩和について」
監理技術者運用マニュアル改正の背景
近年、建設業界では先進テクノロジーによる遠隔施工管理やバックオフィス支援が推進され、技術者の労働時間削減が進んでいます。それに伴い、働き方改革に見合った勤務体系や休暇制度を実現できた現場も少なくありません。
しかし現場に「常駐」する監理技術者は職場を離れられないため、働き方改革の恩恵を受けられず、十分な休暇・休息を取れていませんでした。
こうした背景を受け国土交通省は、監理技術者が育児・介護休暇や勤務間インターバルを取得でき、柔軟な工事書類作成が行える環境を整備するために、マニュアルの改正に踏み切りました。
令和6年4月の改正で変わった監理技術者の働き方
今回の改正では監理技術者の働き方改革が考慮され、運用マニュアルにおける専任要件が大幅に緩和されました。
- 現場を不在にする合理的な理由の追加
- 不在時の対応についての要件緩和
- 不在時に適切な施工体制を確保する手段についての緩和
- 監理技術者を支援する者についての要件緩和
専任要件の改正により監理技術者の働き方が実際にどのように変わるのか、一つずつ解説します。
不在の理由に「勤務間インターバル」が認められた
今回の改正で、監理技術者の不在理由に「勤務間インターバル」を始めとする働き方改革に見合った勤務体系を取ることが認められました。
勤務間インターバルとは、前の勤務の退勤時間から次の出勤時間までの間に、一定の休息時間を設ける制度のことです。退勤が遅かった場合、その分翌日の勤務時間を繰り下げてよいとされ、厚生労働省が導入を推奨しています。
厚生労働省「勤務間インターバルについて」
監理技術者は深夜まで書類を作成し、翌朝早くに出勤するケースも珍しくなく、十分な休息を取れていないケースが多くみられました。
しかしマニュアル改正後は十分な休息時間を前提とした勤務が認められ、退勤が遅かった場合の翌朝の勤務時間を後ろ倒しにすることが認められました。
現在のところ、勤務間インターバルなどの柔軟な勤務形態は努力義務とされていますが、国がケースを例示したことにより、今後監理技術者の労働時間は削減の方向へと進むでしょう。
不在の理由に「テレワークでの打ち合わせや書類作成」が認められた
マニュアル改正前の監理技術者の不在理由は「休暇」「研修」「資格検定・試験」に限定されていたため、書類を作成するためだけに現場へ出勤するような、非効率な働き方が常態化していたのです。
しかし改正後は、遂行すべき業務が打ち合わせや書類作成のみの場合については、現場以外で職務に就いて良いことになりました。テレワークによる打ち合わせや書類作成が認められ、従来よりも柔軟な働き方が可能になっています。
短期の不在は発注者の了承が不要になった
マニュアル改正前はたとえ1~2日の短期間でも、監理技術者が不在になる場合には発注者の了解を得る必要があり、自由な休暇取得が困難でした。
改正によって1~2日程度の短期の不在については、不在でも問題のない施工体制が整っていれば、都度発注者に了解を得なくて良いとされました。
今後、監理技術者は自身の休暇取得のために、現場のフォロー体制を考えるだけで済みます。
代理人によるリアルタイム映像・音声通信での対応が可能になった
従来、監理技術者の不在時には資格を持つ代理技術者を配置し、なおかつ常に連絡が取れて、何かあればすぐに現場へ戻れる体制を取る必要がありました。
それによって監理技術者は休暇中でも、常に仕事を意識していなければなりませんでした。
しかし改正後はZoomなどのリアルタイム映像・音声通信手段を使って、自身もしくは代理者が対応すれば良いことになりました。これにより監理技術者の負担が軽減され、心置きなく休暇を取得できます。
社外かつ技術者以外のサポート業務担当が認められた
従来の監理技術者のサポート業務の条件は、大規模工事であり、かつ同じ会社の技術者から選ぶ必要がありました。結果として、サポートを受けたいときに適切な技術者が見つからず、結局すべての業務を1人でこなすしかなかったのが実情です。
今回のマニュアル改正により要件が緩和され、大規模工事でなくても、また同じ会社の技術者でなくてもサポートを依頼できるようになりました。これによりバックオフィス業務の外注も可能となり、監理技術者の業務負担が大幅に軽減されることが期待できます。
今回は「監理技術者運用マニュアル」の改正で変わる監理技術者の働き方について紹介しました。
長年現場への常駐が基本とされてきた監理技術者の仕事も、専任要件が緩和されたことで柔軟な働き方が可能となりました。建設業界ではほかにも多くの働き方改革が推進されているので、引き続きレポートしていきます。