夏の建設現場は他業種の職場環境と比べて熱中症のリスクが高いといわれます。発症者への対応が遅れれば命にもかかわるため、予防と発症時の適切な対処が必須です。
今回の記事では、建設現場の熱中症について、国土交通省「建設現場における熱中症対策事例集」をもとに、熱中症の注意すべき症状と応急措置、予防法を解説します。
建設現場で注意すべき熱中症とは
熱中症とは、高温や多湿により身体の水分や塩分のバランスが崩れたり、身体の体温調整機能が働かなくなったりした結果、身体に何らかの症状が出た状態のことです。
平常時の身体は血流によって体外への熱発散を行い、汗の蒸発で体温を下げています。しかし高温多湿な環境で身体を動かし続けると、水分とナトリウムが不足し、血流の低下を招きます。血流低下で体温を体外へ逃がせなくなると、熱が身体に溜まってしまうのです。
身体に熱が溜まり続けると、頭痛や吐き気、意識障害などを引き起こし、最悪死に至る場合もあるため、熱中症には早期の発見と対処が必要です。
厚生労働省のデータによると、2023年の熱中症死傷者数は建設業で209名、うち死亡者数は12名でした。国の注意喚起を受け、各建設現場では熱中症対策を推進していますが、労働者自身も自衛に努めることが大切です。
参照:「令和5年 職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値)」
建設現場で熱中症になりやすいリスク要因
建設現場で熱中症になりやすいリスク要因をまとめます。
- 時期的要因
- 環境的要因
- 身体的要因
時期的要因
1年のうちで熱中症の発症者が多いのは以下の時期です。
- 暑くなり始めた時期
- 急に暑くなる日(梅雨明けなど)
- 熱帯夜の翌日
5月の初夏や梅雨明けの急に暑くなった日は、身体が暑さに慣れていないため、熱中症を発症する人が増えます。身体が熱さに順応(暑熱順化)するには、通常数日から2週間ほどかかるといわれ、身体が暑さに慣れてくると熱中症の発症リスクは下がります。
ただし一度暑さに慣れても、長く休むと身体の暑熱順化がリセットされてしまうので、お盆休み明けなどは油断禁物です。
環境的要因
熱中症が発生しやすい環境的要因は以下のとおりです。
- 高温、多湿
- 直射日光や輻射熱(熱源)の元での作業
- 風がない、または弱い
こうした環境下では発汗による熱放散が働きにくくなります。熱中症の環境的リスクを示す「WBGT値※」を参照し、予防に努めることが必要です。
※WBGT値とは、人間の身体の熱バランスに影響を及ぼす「気温」「湿度」「輻射熱」の3つで熱中症の危険度を数値で示す暑さ指数のこと。
参照:厚生労働省「職場のあんぜんサイト:暑さ指数(WBGT値)[安全衛生キーワード]」
身体的要因
体調や持病などの身体の状態も熱中症発生リスクを高める要因です。
- 激しい運動をしている
- 日頃運動不足である
- 二日酔い、寝不足などの体調不良がある
- 体が暑さに慣れていない
- 糖尿病などの持病がある
- 肥満気味
体調不良のときには体温調節機能が衰えている場合が多く、熱中症のリスクが高まります。二日酔いや欠食の場合はすでに体内の水分・ナトリウムが不足気味のため、熱中症にかかりやすい状態です。
現場で熱中症が発生したときの応急処置
熱中症の症状と重症度別に必要な対応をまとめました。
重症度 | 症状 | 必要な対応レベル |
Ⅰ度 | 立ちくらみ、筋肉痛、こむら返り、大量の発汗 | 現場の応急処置で対応 |
Ⅱ度 | 頭痛、吐き気(嘔吐)、虚脱感、体のだるさ、その他の不快感 | 病院受診が必要 |
Ⅲ度 | 意識障害、けいれん、運動障害、高体温(体が熱を持っている) | 入院・集中治療が必要 |
熱中症が疑われる症状の人がいたら、涼しい環境へ移動して体を冷やします。衣類を脱がせて水をかけてから、仰いで風を当て、身体の熱を逃がすようにしましょう。
熱中症は症状が急激に悪化することがあるので、救命のために症状が軽いうちから身体の冷却を行うことが大切です。氷のうなどがあれば、前頚部の両脇と脇の下、そけい部(大腿付け根前面)を冷やすと効果的です。大きな動脈を冷やすことで体温の上昇を抑えられます。
水分や塩分を自分で摂取してもらって、本人の意識がしっかりしているか確認することも大切です。以下の場合は点滴加療が必要なため、救急車を呼んでください。
- 自分で水が飲めない
- 呼びかけに返答がない・おかしい
- 吐き気がある
この状態で無理やり水を飲ませると気道に入ってしまうため危険です。救急車を待つ間も身体の冷却を続けましょう。
以下の国土交通省の資料に熱中症発症者の対処手順が詳しく書かれているので、ぜひチェックしてください。
参照:国土交通省「建設現場における熱中症対策事例集」
建設現場での熱中症予防法
夏季の建設現場では、熱中症予防のために自衛することも大切です。以下に自分でできる熱中症対策を挙げます。
- 水分・塩分を摂る
- 体を冷却する服を着る
- 熱中症対策グッズを取り入れる
- 体調管理を心がける
水分・塩分を摂る
喉が渇いたと感じる前から、こまめな水分・塩分補給を心がけましょう。
水分だけを補給していると、体内の塩分濃度が下がってしまうため、逆に熱中症発生リスクが高まることがあります。仕事で汗をかいている場合は塩分も一緒に摂ってください。
スポーツドリンクや塩分タブレット、梅干しなどを携行するのがおすすめです。
体を冷却する服を着る
身体を冷却する服を着ることも、熱中症の有効な自衛策です。
安全性の高い作業着は通気性が低いため、インナーを工夫する必要があります。冷感機能、吸汗・交通規制・速乾の機能がついたインナーを着れば、体温の上昇を抑えられます。
専門作業用品店では「接触冷感」「遮熱−7℃」などの高品質素材のウェアが多数販売されているので、チェックしてみてください。
作業着の上に着るファンつきベストや遮光チョッキなども、国土交通省に推奨されています。
熱中症対策グッズを取り入れる
熱中症対策グッズを取り入れるのもおすすめです。近年は屋外作業用に、以下のような対策グッズが市販されています。
- ネッククーラー
- 冷感タオル
- アイスノン
- 冷却スプレー
- ボディーシート
- アイスベスト
- ヘルメットインナー
- ヘルメット取付ソーラー充電式ファン
- クーリングベルト
職場で冷却グッズやベストを貸し出してくれる場合も多いので、有効に活用してください。
体調管理を心がける
長期の休みの間でも、日常的に適度な運動をおこない、バランスの良い食事と十分な睡眠を心がけましょう。
また暑さに身体を慣れさせるために、以下を意識するのも有効です。
- ウォーキングや筋トレを30分程度行う
- 40℃くらいの湯船に浸かる
- 冷房を控えめにする
もちろん水分補給を欠かさず行うことが前提です。運動時にはスポーツドリンクなどの水分と、塩分タブレットや梅干しなどの塩分を携行しましょう。
そして仕事中は、ちょっとした体調の変化も見逃さないことが大切です。たとえば「尿の色が濃い」は脱水を判断するバロメーターです。色が濃いと感じたら直ちに250ml~500mlの水を飲むようにしてください。
今回は建設現場での熱中症対策について解説しました。会社や職場による環境整備も大切ですが、働く側も「自分の身は自分で守る」意識を持ち、熱中症の予防に努めましょう。