身体的疲労ばかりがクローズアップされる建設業界ですが、近年は建設業でもメンタルヘルスが注目を集めています。建設現場では働く人の高ストレス状態を見逃すと、不安全行動や事故にもつながるため、働く人のメンタルヘルスは重要です。
今回の記事では、建設業界のメンタルヘルスについて、建設業労働災害防止協会による取り組みを解説し、メンタルヘルスに配慮した職場の選び方も紹介します。
建設業界のメンタルヘルスの現状
はじめに建設業界のメンタルヘルスの現状を以下の項目で解説します。
- 建設現場のストレスと労災の関連性
- メンタルヘルス関連制度の浸透状況
建設現場のストレスと労災の関連性
建設業界でストレス症状を発症するケースの多くが建設現場であり、実際に精神障害による労災補償は建設現場従事者に多く見られるといわれます。
特に建設現場の監督者は、以下の理由でストレスを抱えやすい傾向です。
- 工期厳守である
- 天候などの不確定要素が大きい
- 不規則な長時間労働、休日出勤が多い
- 閉鎖的な「タテ社会」の人間関係が残っている
高ストレス状態や慢性的睡眠不足が続くと、脳の血流が低下し、認知機能に悪影響を及ぼします。集中力・注意力が低下すれば、不安全行動につながることは明らかです。
建設業労働災害防止協会(以下、建災防)と建設労務安全研究会による2019年の調査では、建設現場就労者の心身状態と転倒・墜落未遂(ヒヤリハット体験)の関連性を明らかにしています。以下の症状がある人は、自身に原因のあるヒヤリハット体験をするリスクが、無症状の人と比べて1.2倍~2倍ほど高いことが分かりました。
- 疲労感・抑うつ感などのストレス反応が高い
- 眠りにつきにくい・眠っても途中で目覚めてしまうといった不眠症状がある
ヒヤリハットは事故に結びつく重大な因子のため、ヒヤリの原因排除が欠かせません。
参照:建設業労働災害防止協会「建設現場の職場環境改善」
メンタルヘルス関連制度の浸透状況
労働安全衛生法により、常時50人以上の従業員を雇う事業場では年に1回以上のストレスチェックの実施が義務づけられていますが、50人未満の事業場では努力義務のみです。
建設事業場のほとんどが小規模のため、ストレスチェックの適用対象には当たりません。そのため建設業界では他業種のように、ストレスチェックなどのメンタルヘルス関連制度が浸透しにくいのです。
また建設現場は他の業種と異なり、決められた工期で複数の事業者が一緒に仕事をする特徴があります。元請け・下請間で一貫性のある長期的なメンタルヘルス制度運用が難しい点も、建設業界特有の課題です。
建設業界のメンタルヘルス対策
元請け・下請けの多層構造や小規模事業場など、建設業界の特性を踏まえて、建災防ではメンタルヘルス対策の浸透を図る以下の取り組みを実施しています。
- 建災防式無記名ストレスチェック
- 新ヒヤリハット
- 建災防式健康KY
1つずつ解説します。
建災防式無記名ストレスチェック
建災防では建設業業界の特性を考慮した、独自の「無記名ストレスチェック」を考案・推進しています。
全産業で行われるストレスチェックとの違いは、事業場単位で元請け社員・作業員の両方を対象に行われる点です。
安全朝礼の際に、現場所長などから無記名ストレスチェックの趣旨と実施方法の説明を受け、元請社員と作業員の両方に調査票が配布されます。およそ5~10分程度で回答できるので、それほど負担にはならないでしょう。
無記名ストレスチェックは工期内に複数回行われます。回答結果は実施責任者が建災防の集計分析ツールを使って集計・分析し、職場環境の改善に活かす仕組みです。
新ヒヤリハット
建災防では現在、心身の状態やコミュニケーションに視点を置いた「新ヒヤリハット報告」の取り組みを強化しています。
新ヒヤリハットでは、従業員にヒヤリハット報告を求める際、作業内容と発生原因に加え、次の項目も質問します。
- 仕事の量的負担
- 心身の状態
災害の背景に潜む人的要因を分析し、現場の特性に応じた事故・災害防止対策を講じることが目的です。
しかし従業員の中にはヒヤリハットに苦手意識を持つ人もいるでしょう。そこで会社によっては専用アプリやツールを利用し、新ヒヤリハット記入をスマートフォンでできるようにするなど、報告負担を軽減する工夫も行われています。
建災防式健康KY
建災防式健康KYでは、通常の安全ミーティング時のKY項目に、作業員の体調に関する項目が追加されています。
具体的には職長から各作業員に以下の質問をし、表情、姿勢などの観察を行い、日々の体調変化を把握します。
- よく眠れたか?
- おいしく(ご飯を)食べたか?
- 体調はよいか?
継続的なコミュニケーションと観察によってストレス状態を早期に察知し、不安全行動の防止につなげる目的です。
建設業界でメンタルヘルスに配慮する職場を選ぶ方法
近年は建設業界にもメンタルヘルスに配慮する会社や職場が増えています。ここでは就職や転職を考えている方が、メンタルヘルスを重視する職場を選ぶ方法を紹介します。
- 常勤従業員50人以上の会社を選ぶ
- 健康経営を掲げている会社を選ぶ
それぞれ見ていきましょう。
常勤従業員50人以上の会社を選ぶ
常時勤務する従業員が50人以上の企業には、労働安全衛生法で以下が義務付けられています。
- 年1回以上のストレスチェックの実施
- 衛生委員会の設置
- 産業医の選任
- 衛生管理者の選任
- 定期健康診断結果報告書の提出
参照:
厚生労働省「 安全衛生管理体制のあらまし」
厚生労働省滋賀労働局「2015年12月からストレスチェック制度が義務化されました」
定められた安全衛生管理体制を満たす会社であれば、メンタルヘルスに配慮した職場環境整備が進んでいる可能性が高いでしょう。
高ストレス者に対し産業医面談を実施している会社なら、万が一休職に至った場合のフォローアップ体制も期待できます。
健康経営を掲げている会社を選ぶ
「健康経営」を掲げている会社を選べば、メンタルヘルスへの配慮が行き届いている可能性が高いです。
健康経営とは、経営視点から従業員の健康管理を考え、戦略的に健康増進を図ることです。従業員の活力、ひいては生産性の向上、組織の活性化をもたらす経営手法として、近年注目されています。
近年はCSRやコンプライアンスの観点から健康経営に注力する企業が増えており、建設業でも経済産業省の「健康経営優良法人」に認定される会社が多くなりました。
健康経営に注力する会社なら、メンタルヘルスへの配慮も進んでいるでしょう。これから就職・転職するなら、健康経営に力を入れている会社を選ぶのがおすすめです。
パシコン技術管理の求人に掲載されているお仕事は、スーパーゼネコンや大手企業による公共事業関連業務が多く、コンプライアンス遵守のクリーンな会社がほとんどです。
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