建設業界では、2024年4月からの時間外労働の上限規制や近年のDXの進展によって、業界全体が新たな働き方へとシフトしています。
人手不足が課題といわれる建設業界ですが、実は各種のデータを紐解くと、女性の就業者数の増加や賃金の上昇、休日取得の増加など、好転している要素も少なくありません。今回は日本建設業連合会(日建連)などのデータをもとに、これらの変化を具体的に解説します。
建設業の技術者数は増加傾向
1997年をピークに減少を続けてきた建設業の就業人口ですが、新規学卒者の建設業への入職者数が2009年の2.9万人以降は増加傾向となり、2017年には4.1万人にまで増加しています。
中でも技術職(企画、設計、施工管理など)については、2013年の27万人から2023年には38万人まで大幅な増加がみられました。近年、施工管理の職種で従業者数、求人数が大幅に増えている影響もあると考えられます。
国が推進するI-Constructionや建設DXにより、今後も施工管理をはじめとする技術者の需要は増加し続け、新規入職者数も増えると見込まれます。
全産業を上回る賃金の上昇
建設業の年間賃金総支給額は2017年に全産業を上回り、2023年度は591万9千円に達しました。
建設業の賃金が急激に上昇した背景には「公共工事設計労務単価(建設業で働く人の賃金計算のベース)」が12年連続で引き上げられたことがあります。労務単価は2012年の13,072円から2024年には23,600円へと、12年間で約180%引き上げられました。
さらに国が2024年に前年度比5.9%の大幅な引き上げを行った背景には、時間外労働の上限規制適用による非月給制労働者の収入減少を緩和する狙いがあります。
また今回の改定時には労務単価と法定福利費等諸経費との線引きが明確化され、賃金に充てられるべき金額がより確実に働く人に還元されるようになりました。
こうした国の施策により、建設業で働く人の賃金は今後手取りベースで上昇すると考えられます。
女性の就業率は上昇傾向
2023年の建設業における女性の就業率は18.2%と、全産業に迫る勢いで着実に増加しています。
2010年以降、事務職に限らず技術職や技能職、営業職の全職種で女性就業率が増えており、各職種の母数が増えるにしたがって、管理職に就く女性も増加することが期待されます。
女性が安心して長く働けるよう、業界を挙げて職場の設備や制度面の整備に取り組んできた成果が表れているようです。実際、20代の女性技術者数の統計では、2015年から2020年の5年間で約2.3倍もの増加を見せ、2020年から20年間では4.4倍に増えています。
職場の環境整備が進むとともに、女性技術者の増加は今後も続くと見込まれます。
出勤日数と労働時間の削減
建設業界の年間出勤日数は、2013年の254日から2023年には241日へと、10年間で約5.1%削減されました。年間労働時間も同様に2,094時間から1,978時間へと、10年間で約5.5%減少しています。
これは、2024年4月からの時間外労働の上限規制適用を見据えた業界全体の取り組みの成果です。
国もこれまで「建設業の時間外労働の上限規制に関するQ&A」などの労働時間に関するガイドラインを示し、労働時間の定義を明確化してきました。たとえば現場までの移動時間やKY(危険予知)ミーティングの時間、片付け時間などの扱いについて明示しています。
建設業で働く人のワークライフバランスを重視する国の働きかけにより、今後も建設業界の「ホワイト化」が加速する見込みです。
建設キャリアアップシステム(CCUS)の浸透
2024年9月30日時点で、建設キャリアアップシステム(CCUS)の技能者登録数は152万5895名に達し、2019年からの5年間で約25倍に増加しました。年間に約29万名、月間約2万4千名ずつ増えている計算となり、制度が着実に浸透していることがわかります。
CCUSは建設業で働く人のキャリアを可視化し、技能レベルに応じた賃金の支給やキャリアパスを明確にするツールです。もともと建設業には技能ごとの資格制度があり、ランクアップしやすい業種ではありましたが、CCUSで技能レベルが明確になったことで、キャリアパスがさらに可視化されました。
最近ではCCUSの技能レベルに応じた「キャリアアップ手当」を支給する会社が増えています。
CCUSの浸透により働く人たちが自身のスキルレベルを把握できれば、長期的なキャリア形成が容易になると期待されます。
なお、これまで別々に申請が必要だったCCUSの登録申請手続きと能力評価団体への申請手続きが、今後CCUSへの手続き1本にワンストップ化される話も挙がっています。システムのアップデートにしたがって、CCUSの利便性も高まる見込みです。
賃金や労働環境の改善、女性の活躍やキャリアアップのチャンスなど、国交省や日建連によるさまざまな取り組みにより、建設業界で働く魅力がさらに高まっています。今後の建設業界の動向からますます目が離せません。