生成AI導入による業務効率化の流れは、建設業界にも及んでいます。DX(デジタルトランスフォーメーション)が推進される中、AIがどのように業務効率化に貢献するのか、働き方がどのように変わるのか、気になる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、建設業界で導入が進むAI技術の概要と、導入が進む背景、今後の展望を紹介します。
建設業界でAI活用が進められる背景
建設業界でAI活用が進む背景には深刻な人材不足があります。2023年の建設業就業者数は1997年の66.2%にまで減少し、うち55歳以上が全体の約36%を占めるなど、高齢化も進んでいます。
急激な労働人口減少に対応するため、国土交通省は2016年からI-Construction(建設現場のICT化による魅力的な現場づくり)を推進し、建設業の生産性向上を目指してきました。2024年4月に策定した「i-Construction 2.0」では、データ連携や施工・施工管理の自動化を柱に掲げ、AIを含むテクノロジー活用をさらに推進しています。
国はAI活用の推進で建設業界の労働環境を改善し、担い手の確保を目指しています。
建設業界におけるAI活用シーン
建設業界でAIを活用すると、業務効率向上による労働時間短縮や危険作業の回避が期待できます。
ここで建設業界における具体的なAI活用シーンを見ていきましょう。
現場作業(自動化・自律化)
AI搭載の建設機器により現場作業を自動化する技術の開発が進んでいます。一例として、建設機械の自律走行サポートシステムや、ロボットによる単純・高負荷作業の代替などがあります。
また、広大な土地や危険個所での測量も、ドローン撮影とAI解析により高精度かつ短時間で行えるようになりました。同様の技術は、工事現場の資機材管理システムにも活用されています。
今後の建設現場では、AI技術により目視と手作業が大幅に減り、危険作業も削減されるでしょう。
検査(自動画像解析)
生成AIの画像認識による検査技術も実用化されています。
ドローンやロボットで撮影した画像をAIが解析し、ひび割れや鉄筋の本数・太さ、配置までを自動かつ高精度で検査できるシステムが開発されました。AI画像解析でCAD図面化する技術は、橋梁など社会インフラの損傷検査にも応用されています。
今後はビルメンテナンス分野でもAIとIoT技術の活用が期待されます。
工程管理・出来高管理(工程や計画の最適化)
AIが天候、資材、人員などのデータを分析し、最適な工期や工程計画を立案するシステムの開発が進んでいます。
AIが工事の進捗と品質を監視し、遅延や問題の原因を分析して工程を自動修正する技術が開発されました。また、熱中症リスクや風速などを指数表示するAI気象予測サービスも登場し、気象条件による作業可否判断がしやすくなると期待されます。
こうした技術はミスやスケジュール遅延の防止、最適な工期設定に役立つでしょう。
リスク管理(監視・警告の自動化)
AIカメラが現場の映像を解析し、作業員の危険行動(ヘルメット未着用、立入禁止区域への侵入など)や、重機と人の接近を検知・警告を発するシステムが開発されています。遠隔から建設現場を仮想巡回できるAIシステムも実用化されました。
また、生成AIは過去の事故データにもとづきリスク要因を予測することも可能です。 過去の労災データを分析し、特定の現場や作業におけるリスクを評価することで、安全対策の立案に役立ちます。
コスト管理(計算・価格変動予測)
生成AIはコスト管理の効率化にも活用されています。
従来、複雑な価格算出は人の手で行われていたため、特定のベテラン人材に負担が集中しがちでした。しかし、過去の見積データを学習したAIが見積を算出するシステムが登場し、実務経験の浅い人材でも短時間で正確な見積もりが可能になっています。
近年では、物価変動を予測する経済予測AIプラットフォームも開発され、建設費の変動リスク軽減が期待されています。
デザイン・設計(3Dモデルの自動生成)
AIが過去の設計データや制約条件を学習し、最適な設計案を生成できるようになりつつあります。
AIは複数の設計案を同時に出力できます。またBIM(Building Information Modeling)データとAIを連携させれば、設計の妥当性チェックや干渉チェックなどの効率化も可能です。3次元モデルを自動生成することで、設計段階での問題発見や、複数設計案の比較検討が容易になる点もメリットです。
事務
生成AIは建設エンジニアの日常業務の効率化にも役立ちます。以下のような事務業務にAIを活用すれば、業務時間を大幅に短縮できるでしょう。
- 膨大なPDF資料の要約
- 音声文字起こしデータからの議事録作成
- メール返信文の作成
- 工程計算などのExcel関数の生成
また、AIに法令を学習させれば、建設業特化のコンシェルジュとしても活用でき、すでに実用化されたソフトウェアもあります。今後、建設業向けのAI搭載ソフトが増えることで、他部署や取引先との連携もスムーズになるでしょう。
建設業界はAI活用で働き方が大きく変わる
建設業界は生成AIの活用で業務の大幅な効率化が期待できます。
AIによって年間業務の平準化や時間外労働の削減、関係者との情報共有といった課題の解決が進み、建設エンジニアの働き方改革は大幅に前進する見込みです。業務のスマート化で働きやすさが向上すれば、建設業界は若手にとっても魅力的な業種となるでしょう。