建築分野で活用されてきた3Dプリンターが、土木工事でも注目を集めるようになっています。導入事例が増えてきたことを受け、国土交通省でも3Dプリンター造形物の出来形・品質管理方法に関する指針を示しています。
今回は、インフラ関連DXにおける建設用3Dプリンターの活用場面と、同指針のポイントをご紹介しつつ、建設技術者の仕事がどのように変わるのかについても触れていきます。
建設用3Dプリンターの概要
土木分野における建設用3Dプリンターとは、コンクリートやモルタルなどのセメント系材料を型枠なしで積層し、集水桝・護岸ブロック・擁壁などの構造物や部材を短期間で製作・施工する技術です。
設計データからそのまま造形できる3Dプリンターは工数を大幅に削減できるため、プレキャスト技術と並んで省人化・工期短縮に寄与する技術として期待されています。
【プレキャスト技術と3Dプリンター施工の得意領域】
- プレキャスト技術:直線部や規格品の製造
- 3Dプリンター:自由な形状や多品種少量、特殊形状の施工
直轄工事での活用実績が増えてきたことを受け、国土交通省は2026年3月に3Dプリンター造形物の特性を考慮した新指針「建設用3Dプリンタによる造形物の出来形及び品質の確認に関する参考資料(案)」を策定しました。
こうした制度面の整備に後押しされ、建設用3Dプリンターは実証段階から実装段階へ移行しつつあります。
土木工事に3Dプリンター施工を導入するメリットと期待される効果
省人化・工期短縮・柔軟な造形——3Dプリンターが土木工事にもたらすメリットは多岐にわたります。それぞれの具体的な効果を見ていきましょう。
土木工事に導入するメリット
土木工事に3Dプリンター施工を導入するメリットは以下のとおりです。
- 型枠や一部の足場作業の削減が可能
- 曲線や特殊形状の施工が容易
- プロセス削減による工期短縮
- 省人化・省力化に貢献
- 熟練技能者への依存度を低減
- 廃材や運送時のCO2排出を削減
- 災害復旧の迅速化に有効
3Dプリンターは、特に複雑な地形や既存構造物との立体交差部の施工に大きな強みを持ちます。現時点では従来工法よりコストが高くなるケースもありますが、交通規制など現場周辺への影響も最小限に抑えられるため、トータルの経済効果が投資を上回る可能性があります。
天候などの不確定要素が減るため工程管理が容易になり、将来的には建設技術者の管理負担も軽減されるでしょう。施工事例の公開や広報活動、イベントなどによって技術の認知が広がれば、建設業界のイメージアップにもつながります。
土木工事におけるユースケース
土木工事において3Dプリンターが適用可能な場面は、異形桝や階段、護岸工事、災害復旧工事など多岐にわたります。実際の施工事例とその成果は以下のとおりです。
- 集水桝の造形:通常の施工と比べて作業員を5人削減、作業時間を36時間短縮。
- 河川管理用階段の施工:通常施工で17日かかる工期を4日に短縮。
- 河川の魚道整備:実働日数40日間・施工人工40人分を削減しつつ、遡上しやすい凸凹形状の隔壁により多様な河川生態系の創出に貢献。
- 河川災害復旧工事:型枠組立・脱型作業の効率化により工期を20日から6日に短縮。廃棄型枠ゼロで環境負荷の低減にも寄与。
大規模災害の被災地では激増する工事に対応する作業員が不足しがちですが、3Dプリンターの導入によりスムーズな着工・施工につなげられます。また、「近隣施設の開業に合わせて竣工を前倒ししたい」といった地域特有の事情にも対応しやすくなるでしょう。
建設用3Dプリンターの出来形・品質管理上の注意点
土木工事に有用な建設用3Dプリンターですが、現時点では出来形・品質管理基準を標準化できるだけの事例が蓄積されていません。そのため国は建設用3Dプリンターを「新しい施工技術」として前向きに位置づけつつも、従来基準をベースにしながら、3Dプリンター特有の確認項目を追加し、個別協議で品質を担保すべきとのスタンスを取っています。
【国土交通省が示す留意点】
①コストと効果の両面から検討が必要
3Dプリンター適用の妥当性と工事全体の費用対効果について、受発注者間の協議で検討・確認
②JIS規格の対象外
出来形・品質確認では協議や目視確認が必要な場合がある
③造形物特有の表面性状を加味した評価が必要
積層によって凸凹が生じることから、強度測定や外観評価の基準や方法については事前の取り決めが必要
施工をスムーズに進めるためには、現場ごとに管理項目や管理基準を事前に設定しておくことが重要です。特に発注者側の判断基準の整備が欠かせません。
建設用3Dプリンターの進化と建設技術者に求められるスキル
特殊な地形や狭小地の施工、小ロット部材の製作が可能になったことで、オンサイト施工(現場施工)の事例も増えてきました。鉄筋に材料を吹き付ける工法や、空中積層工法といった新しい技術の開発も進み、自治体レベルへの普及も期待されています。
これからの建設技術者には「決められた工法で施工する」だけでなく、「3Dプリンターをどのような場面でどのように活用できるのか」といった視点が求められます。
- 施工管理:3Dプリンター施工の技術理解・出来形管理基準の読み替え
- 技術選定・発注者支援:新技術の適用可否を比較検討
- 設計:材料特性・施工プロセス・維持管理まで見込んだ設計力
適用事例の蓄積によって基準が標準化されるまで、受発注者間協議をスムーズに進められる知識を持つ技術者は、特に重宝されることが予想されます。3Dプリンターのユースケースと品質管理手法について、最新の情報にキャッチアップしていきましょう。
