2025年6月に熱中症対策が一部義務化されたことを受け、国土交通省は同年12月に「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」を策定しました。
本記事では、猛暑対策サポートパッケージの内容と4つの柱をわかりやすく解説します。建設技能者だけでなく、施工管理を担う技術者の業務に与える影響についても解説します。
猛暑対策サポートパッケージと熱中症対策の義務化
国土交通省が2025年12月に策定した「建設工事における猛暑対策サポートパッケージ」は、猛暑期間・猛暑時間の作業を回避できるように、適切な工期設定、施工方法の工夫、費用計上、発注者との協議を制度的に後押しする包括的な支援策です。
年々深刻化する猛暑の実態を受け、2025年6月の改正労働安全衛生規則で事業者に熱中症対策が義務付けられました。ただし建設業の場合、元請・下請、交通誘導警備員など所属の異なる作業者が混在する現場の特殊性や、発注者との関係性などが熱中症対策のハードルになりがちです。
そのため国土交通省は、受発注者間協議で熱中症対策についてスムーズに取り決めできる仕組みとして、同パッケージを策定した経緯があります。
猛暑対策サポートパッケージの具体的な施策
猛暑対策サポートパッケージでは、現場で働く人の命と健康を守るために、以下の4つの柱を掲げています。
- 猛暑期間・時間の作業回避
- 効率的な施工、作業環境の改善
- 猛暑対策に必要な経費等の確保
- 地方公共団体・民間発注者等への周知・要請、好事例の横展開
それぞれの施策と建設技術者の業務における留意点を見ていきましょう。
①猛暑期間・猛暑時間の作業回避
同パッケージでは、契約時点で猛暑期間と猛暑時間を回避することを第一の柱として掲げています。具体的な施策は以下のとおりです。
- 猛暑期間の休工を考慮した工期設定
- 猛暑期間における現場施工回避について、発注者との協議を可能に
- 猛暑時間の施工回避
- 年単位の変形労働時間制の導入(涼しい季節に労働時間を補う)
- 発注者側の適切な設計図書作成
猛暑日の不稼働で積算の見込みよりも工期が延びた場合に、延長日数に応じて精算できるようになりました。また、特記仕様書に「猛暑期間の現場施工回避について監督職員と協議可能」と明記し、猛暑期間を内業・準備期間に充てるといったことも可能です(関東地方整備局 宇都宮国道事務所の取組事例)。
今後の施工管理の実務においては、猛暑日・猛暑時間・WBGT・熱中症リスク・休工可能性を織り込んだ工程管理が求められるでしょう。
②効率的な施工・作業環境の改善
同パッケージでは、限られた時間内で生産性を高めつつ、熱中症リスクを下げる効率的な施工と作業環境の改善も推進されています。
- i-Construction 2.0の推進
- 作業環境の改善
【実際の取組事例より】
- ケーブルクレーンの自律運転と遠隔コンクリート打設システムの導入により、屋内での施工管理体制を実現
- 定置式水平ジブクレーンを活用し、重い資材の人力運搬を削減することで、炎天下での作業量を大幅に軽減
直轄土木工事の総合評価落札方式では、「技術提案評価型S型」で入札企業に施工方法の工夫(人力作業の削減など)を提案してもらう方式が導入されています。
設備面については、冷房付きトイレカーや遮光ネット、ミストファン、エアコン付き休憩スペースなどの導入に「現場環境改善費」を適用できるようになりました。
施工管理の実務においては、暑さによる手戻り・中断・事故リスクを施工計画の段階でどこまで抑えられるかが問われます。また、ICTやDXを安全管理・工程管理・省人化の手段として選定・運用する視点も必要となるでしょう。
一方で、遠隔管理が可能になれば、施工管理の業務負担は大幅に軽減されると考えられます。
③猛暑対策に必要な経費等の確保
暑さ対策は福利厚生にとどまらず、工事を安全に進めるための必要経費として扱われる方向にあります。
- 現場管理費の補正
塩飴・経口補水液・空調服・熱中症対策キットなど、作業員個人に対する熱中症対策経費を計上可能 - 「現場環境改善費」の切り離し
遮光ネット・大型扇風機・ミストファン・休息車など、現場の施設・設備に対する費用を積み上げで別途計上可能
また、猛暑によって工期が延長した際には、延長日数に応じた増加費用の積算が可能になりました。今後の実務では、原価管理・積算・変更協議時にこれらを考慮する必要があります。
④発注者への周知と要請、好事例の共有
市区町村レベルで工期に猛暑日を考慮している発注者が2割未満(2024年時点)に留まる実態を踏まえ、国土交通省は地方公共団体や民間発注者に対し、工期設定に猛暑日を考慮するよう改めて要請しました。併せて、好事例を共有・横展開する仕組みも設けています。
「制度はあっても現場に届かない」という状況を変えるため、国は入札・契約制度の調査(入契調査)を通じて現場の好事例を発掘し、「建設工事における猛暑対策事例集」に取りまとめて周知しています。一部の発注者・受注者が試行的に取り組んできた施策を標準化していく考えです。
さらに、国は同パッケージを完成形と捉えず、現場のフィードバックを取り入れながらアップデートを重ねていく方針です。
これからの建設技術者には、猛暑を前提に施工を組み立てる力(工程・安全・費用・協議・DXを一体で管理する現場運営力)が求められます。現場を止めないだけでなく、無理なく、安全に、効率よく進めるための調整力を持つ技術者は、今後活躍の場が広がるでしょう。
